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長者妙相夢想造立記(静岡県指定文化財)




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長者妙相夢想造立記(静岡県指定文化財)

毘沙門天胎内より発見された願文。以下、口語訳(「新居町史第三巻風土編」(新居町史編 纂委員会 一九八九年)より引用) 南閻浮堤(インドにある世界の中心である山で、すべての仏はこの山で誕生するという。)東隅豊葦原遠江国渕郡(敷知郡)黍庄笠子郷橋本の宿、長者妙相は、河内国石河郡(大阪府南河内郡太子町)におわす聖徳太子の御廟(叡幅寺)に詣 で、そこで貧道(僧の謙称)は、仏・法・僧を 敬い供養すべく誓願しましたが、仏法相を敬い、 父母の恩に報い貧しきを救うに力が及びません。 我が国の仏法は、もったいなくも聖徳太子の御 廟にてお誓い申し上げるにより、救世観音の悲 願が達成されると伝え聞きます。そこでここに弟子として妙相考えますのに、真実で誤りなき道理 というものは、世間の道義なくして成り立たず、 また世間の道義も誠の道によって成り立つものだと。まさに今、世俗の福がなく俗世を離れることもできないのに、欲しいままに深重な願いを立 てました。するとその夜のこと、夢のお告げがありました。 それは、私の体にむかでが這い上がってくる ので、これを箒で払い落としたところ、再三む かでが寄ってきて、これを箒で払っていますと、 聖人が現れておっしゃるに、これは毘沙門天から与えられた福であると。私は悟されましてこのむか でを懐に納めました。 それから再び夢のお告げがありました。それは、婆祖仙人が来て云われるに、三州額田郡にあ る真福寺(愛知県岡崎市)の寂雲法橋のもとに行 き済度してもらい、三十三文の銭と白米三斗をお 布施してもらいなさいと云われたのでそれも果 たしました。 そして、同閏年九月二十二日の夜のこと、第三 度目の夢のお告げがありました。それは、鞍馬 寺の毘沙門天に詣でました夢で、毘沙門天王から 七八文の大銅銭をお授けくださるとのお告げが あり、見るとそこに大銅銭がありました。これを取るとたちまち釜に変わったのでした。 そして第四度目の夢のお告げでした。翌二十三 日夜、あの毘沙門天像を作られた仏師が来られ、 果物を一供えして云われますのに、奥深き谷にあ る天子様の寺から給わってきたのだが、毘沙門天 像を汝が代々受け継ぐようにと。 そもそも、このように四度にも渡る夢のお告げ は、私の願望を叶えてくださろうということで あろうか、つくづくありがたく思い、毘沙門天像 を作り祀って、尊像の胎内に、私の見た不思議な 夢の状を記し、仏舎利二粒と自筆の観音経・毘沙 門経・陀羅尼経などを添えて納めることにしまし た。多聞天・持国天・広目天・増長天の四大天王様、 ならびに諸天善神様、どうぞ妙相の願望が叶いま すよう、ひたすらお願いするものです。 文永七年(一二七〇)庚午閏九月二十五日  妙相敬白